中国のアリババグループによる信用スコア事業
「芝麻信用」
の現地での大成功は日本企業の経営者達にとても響くものがあるらしく、有名なIT・ネット企業が個人の信用格付け事業への参戦を表明しています。
しかし、日本と中国では社会ルールや国民性に大きな違いがあります。
なので、芝麻信用を完璧に模倣して日本でサービスを開始することはとても困難です。
そんな状況ですが、検索エンジンで有名なyahoo!が
「Yahoo!スコア」
で信用スコア事業を開始します。
サービスの開始は2019年の7月からで、ユーザー向けではなく、まずは企業等ビジネス向け事業となります。
yahoo!は日本で中国の芝麻信用並に普及する信用スコア事業を作れるのでしょうか。
保有するデータ量から見たら日本で最も成功に近い会社がyahoo!ではないのか、とも考えられます。
この記事では、yahoo!(ヤフー)の信用スコア「Yahoo!スコア」の仕組みについて確認できている範囲で解説をしたいと思います。
信用スコアについての知識がない方は、あらかじめ下記のリンク先で信用スコア全般に関して確認しておくと理解しやすいはずです。
このページの目次
なぜYahoo!が信用スコア事業に参入したのか
yahoo!が運営する
「Yahoo!スコア」
の仕組みについて解説をする前に、なぜyahoo!が信用スコア事業に参入したかを考えます。
あくまでも憶測でしかありませんが、ときには社会から大きな批判を受けるであろう信用スコア事業へ参入するからにはそれなりの理由や勝算があるはずです。
ヤフーには膨大なデータが眠っている
「データは新しい時代の石油だ」
という有名な言葉があります。
これは、現代においては保有するデータを様々なビジネスに活用することによってお金が生まれやすい状態になっていることの比喩です。
この点、ヤフーは非常に長期間にわたって運営されており(Yahoo! JAPANの開始は1996年の4月から)、膨大な量のデータがネットから収集&蓄積されています。
データの例をいくつか挙げると
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Yahoo!ショッピングやヤフオク利用者の購買履歴
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yahoo!での検索履歴
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yahoo!でのニュース閲覧履歴やコメント履歴
※あくまでもYahoo!が保有しているデータの例です。検索履歴やコメント履歴を使うとは発表していません
などがあり、しかもこれらは利用者個々に付与されたyahoo!アカウント(Yahoo! JAPAN ID)にひもづく形でデータが残ります。
これは個人の趣味嗜好や信頼性を判断して信用スコアを算出するにあたってとても重要なデータとなり、他社企業と比較するとかなりの優位性を持っています。
芝麻信用を運営するアリババグループとの関係性
世界最大の信用スコアサービスである
「芝麻信用」
は、中国企業の芝麻信用管理有限公司によって運営されています。
そして、芝麻信用管理有限公司は阿里巴巴集団(アリババグループ)の子会社である螞蟻金融(アントフィナンシャル)のグループ企業です[1]アントフィナンシャルは以前は「支付宝(Alipay:アリペイ)」という名前でした。。
なので、シンプルに芝麻信用はアリババ系だと考えて良いと思います。
アリババの大株主は日本のソフトバンクで、ソフトバンクはyahoo!の大株主でもあります。
つまり、芝麻信用を運営するアリババから運営ノウハウなど、直接色々な話を聞ける関係性であるということです。
https://pecu-nia.com/zhima-xinyong/
ソフトバンクとみずほ銀行のJ.Score(ジェイスコア)
yahoo!の親会社であるソフトバンクとみずほ銀行は、共同で株式会社J.Score(ジェイスコア)を作り、日本初のAIスコア・レンディングを開始しています。
AIスコア・レンディングとは、AI(人工知能)で個人の信用力をパーソナルデータの分析をもとに数値化し、その数値によって貸付条件が変動する融資方法です。
簡単に言えば、AIスコアの数値が高くなれば融資の条件も良くなり返済がしやすくなる、ということです。
J.Score(ジェイスコア)は2017年にサービス開始した新しいサービスですが、積極的な広告展開等によって知名度は高くなっています。
ヤフーとJ.Score(ジェイスコア)はサービスの連携もしていますので、J.Score(ジェイスコア)の成長がヤフーへの刺激になったのかもしれません。
信用スコア事業が成功する条件がそろっている
日本人は個人情報に対して警戒心が強いです。
よって、個人の情報は全然知らないような会社ではなくて、信頼できる会社にしか預けたくないと考えるのが普通です。
信用スコアは個人のパーソナルデータを扱うので、知名度の無い企業は参入が難しいです。
この点でヤフーは日本で最大級のWEBサイトを運営しており、誰でも名前を知っている巨大サービスを複数運営しています。
さらに、
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膨大な量のデータを既に保有しているし今後も継続的にデータの収集ができる
-
先行する信用スコアサービスから情報を得ることができる
という条件が揃っているので、他社よりも優位性があるのは間違いありません。
個人的には信用スコア事業が成功する条件がかなり揃っているのではないかと考えています。
ヤフーの信用スコア「Yahoo!スコア」の仕組み
ここからは、本題であるYahoo!スコアの仕組みについて解説します。
既に説明した部分と被る部分がありますが、サービスの核になるのはyahoo!が収集してきたyahoo!のID(Yahoo! JAPAN ID)にひもづく膨大なデータです。
なので、利用者は自分のYahoo! JAPAN IDに対して信用スコア「Yahoo!スコア」が付与されることになります。
ただし、信用スコアは利用者が同意しない場合は作成されません。
信用力の数値化に抵抗がある方は同意しなければ良いだけです。
Yahoo!スコアを本人は確認できない
Yahoo!スコアは2019年7月から開始します。
しかし、基本的にはYahoo!スコアの数値を利用者自身は確認できません。
スコアを確認できるのは、Yahoo!スコアの提携先となる外部のパートナー企業です。
将来的には利用者が自分の数値を確認できるようになるかもしれませんが、まずはパートナー企業向けのサービスとしてはじまります。
※その後、書類送付等の手続きをふめば自身の信用スコアを確認できるようになりました
パートナー企業への提供でもユーザーの同意が必要
Yahoo!スコアの作成は、ユーザーの同意が必要です。
もしユーザーがYahoo!スコアの作成に同意したとしても、Yahoo!スコアが外部のパートナー企業に提供されるとき、ふたたびユーザーの同意が必要になります。
Yahoo!スコアが外部サービスで使われるときは必ずYahoo! ID連携が求められますのです。
このとき、もしYahoo!スコアの提供が嫌なときは拒否すればYahoo!スコアは提供されません。
このように、
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Yahoo!スコアの作成
-
Yahoo!スコアの外部提供
このふたつは明確に分かれています。
Yahoo!スコアを作成したからといって、勝手にYahoo!スコアが外部提供されるような仕組みではありません。
なので、もしYahoo!スコアの数値が本人によって確認できるようになった場合、
-
Yahoo!スコアの数値を自分で確認する
-
だけど外部に提供したくないから外部提供には同意しない
のような、自分の信用力を確認するためだけ、という使い方もできるはずです。
Yahoo!スコアの数値について
次は、Yahoo!スコアの数値についてです。
ヤフーの信用スコアは最大900となっており、数値が高ければ高いほど信用力が高いことを意味します。
中国の芝麻信用は最大が950点ですが、信用スコアが800点以上の人はほとんどいないとされています。
なので、ヤフーでも750点前後よりも高い信用スコアを得られる人はごくわずかになるかもしれません。
スコア作成は拒否できる
繰り返しになりますが、Yahoo!スコアはYahoo!を利用している人のYahoo! JAPAN IDごとに付与されます。
そして、まずは企業だけが利用者のyahoo!スコアを確認できます。
もし、このような状況に納得できない人は、信用スコア作成を拒否することができます。
拒否する場合は、yahoo!IDからログインし、
「Yahoo!スコアの作成・利用」
という項目をオフにすればよいだけです。
Yahoo!スコア分析に使われるデータ
Yahoo!スコア分析はヤフーIDにひもづくデータを分析することによって数値化されます。
ヤフーの場合は分析に使用できるデータが豊富で、おおまかには
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本人確認
-
信用行動
-
消費行動
-
Yahoo! JAPANサービス利用
などのカテゴリごとでデータ分析を行います。
そして、カテゴリごとでスコアが算出されます。
さらに、カテゴリごとのスコアをまとめて総合スコアも算出されます。
カテゴリそれぞれがどんなデータを分析するのかをここから補足します。
本人確認カテゴリで利用するデータ
利用者のヤフーIDアカウントにおけるプロフィールの充実具合が分析されます。
具体的には
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氏名
-
住所
-
電話番号
-
メールアドレス
などの情報の登録率や、情報の有効性、さらには本人確認の有無などのデータによって分析・スコア化されます。
信用行動カテゴリで利用するデータ
信用行動ではヤフーIDアカウントにおける行動が道徳的・模範的かどうかが分析されます。
具体的には
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ヤフオク!での評価
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ヤフーショッピングでのレビュー回数
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Yahooへの支払い履歴で遅延等の傷がないか
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知恵袋での活躍度
など、おもにヤフー系のサービスの利用状況がデータとして使われます。
消費行動カテゴリで利用するデータ
消費行動はヤフーグループ内での購入履歴が分析されます。
具体的には
-
なにを購入したか
-
いくら購入したか
などが分析に使われます。
Yahoo! JAPANサービス利用カテゴリで利用するデータ
Yahoo!グループが提供するサービスの利用頻度等のデータがスコア分析の参考にされます。
企業はどのようにYahoo!スコアを利用するのか
Yahoo!スコアはヤフーが企業に対して提供するサービスです。
企業はYahoo!スコアが高い人に対して特典を用意するなどの営業活動が可能になります。
簡単に、どんな企業がYahoo!スコアを活用するかを整理します。
言い換えれば、Yahoo!スコアが高いとこれから紹介する企業から何かしらのオファーが届く可能性があるということでもあります。
Yahoo!スコアのサービス提供先
2019年7月現在で発表されているYahoo!スコアのサービス提供先をまとめます。
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ランサーズ株式会社
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OpenStreet株式会社
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株式会社TableCheck
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株式会社クラウドワークス
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株式会社一休
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株式会社カービュー
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パスレボ株式会社
構成としては、ヤフーの子会社とシェアリングエコノミー系サービスが目立ちます。
決済アプリ「PayPay」が成功すればいよいよ日本版芝麻信用が登場か
アリババ(アリペイ)が信用スコア事業で成功したのは、ただ膨大なデータを保有していたからでなく、人々の趣味嗜好を分析するのに最適なキャッシュレス決済データを保有していたからだと考えられます。
日本ではキャッシュレス決済系サービスは増加していますが、各社がシェアを分け合っている状態です。
これが携帯電話のような3強状態くらいに落ち着けば、この中に食いこめた会社は膨大な決済データを手に入れることができます。
yahoo!は「PayPay(ペイペイ)」という決済サービスを展開しています。
ヤフーが決済ビジネスで成功するかどうかはわかりませんが、もし成功したら
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個人の検索履歴
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ネットとリアルでの購買データ
という人の欲望と強い関連性のあるデータを手に入れることができます。
このようなデータはどんな企業でも欲しがるものですから、ヤフーはまさに新しい石油を独占できるようになるかもしれません。
もし独占できれば
日本版芝麻信用≒ヤフー
となる日も近そうです。
脚注・引用
↑1 | アントフィナンシャルは以前は「支付宝(Alipay:アリペイ)」という名前でした。 |
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