フリマアプリとしてスタートした「メルカリ」は日本だけで7,000万ダウンロードを超え、その存在感はただのwebサービスのものでなく社会的に必要なインフラになりつつあります。
フリマアプリとしてはすでにメルカリは抜けたナンバーワンの地位を確固たるものにしていますが、その地位に満足する様子はなく
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広告宣伝
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業務拡大
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資本提携
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人材採用
などを極めて貪欲に繰り返しています。
メルカリと同じく人気スマホアプリを運営するLINE株式会社が横展開を繰り返しているのに対して、比較するとメルカリは横展開だけでなくより立体的なスケールで物事を捉えているようにも感じます。
そんな中、2017年12月4日に株式会社メルカリの子会社である株式会社メルペイ(merpay)が代表取締役として元グリー取締役の青柳直樹氏をむかえて設立されました。
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メルペイ(merpay)設立は日本版芝麻信用を作るためか?
会社の名称からでも連想しやすいですが、メルペイ設立は金融関連の新規事業に取り組むためと当初説明されていました[1]https://jp.techcrunch.com/2017/12/04/mercari_s-new-financial-service-company-merpay/。
しかし、その後の関係者へのインタビュー記事などを見ると、キーワードとして
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信用
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中国
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芝麻信用
この三つの言葉がよく出るようになりました。[2]http://tech.nikkeibp.co.jp/it/atclact/active/14/368541/022300270/
ちなみにメルペイ公式サイトによると、メルペイのミッションは
信用を創造して、なめらかな社会を創る
です。
やはり、
「信用」
という言葉がキーワードになりそうです。
中国と日本間でのタイムマシン経営
ソフトバンクの孫正義さんの
「タイムマシン経営」
はとても有名です。
簡単に説明すると、IT先進国アメリカで普及しているサービスを日本で模倣し、目新しい新規サービスとして展開すればヒットする、というものです。
嘘みたいな話ですが、これが日本の若者にはウケてしまうのです。
タイムマシン経営はアメリカの人気サービスを模倣するのが普通でしたが、アメリカもIT界の
「ビッグ5」
と呼ばれる巨人達である
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Apple(アップル)
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Google(グーグル)
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Microsoft(マイクロソフト)
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Amazon(アマゾン)
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Facebook(フェイスブック)
などの力が強すぎて、地殻変動のような大きな変化は起きづらそうです。
たとえ目新しくてインパクトがありそうなサービスが出てきても、最近ではビッグ5に買収されることも多いです。
アメリカはこんな風に落ち着いた状態ですが、中国ではここ数年でIT・ネット界で大きな変化が起きています。
その代表格がアリババグループのアントフィナンシャルの子会社である芝麻信用管理有限公司が中国で運営する
「芝麻信用」
です。[3]日本語での読み方は「ジーマシンヨウ」「ジーマシンヨン」「セサミクレジット」「ゴマシンヨウ」など様々です。
芝麻信用は
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クレジットカードの利用や延滞状況
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シェアリングエコノミーサービスの利用状況
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公共料金の支払い状況
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SNS内の友達の数と質
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SNSを含むネット内での発言
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犯罪や裁判などの記録
などをふくむ膨大なデータをつかい個人の信用力をスコアリング(数字化)し、その信用力に応じて利用者は様々なサービスで優遇される、というものです。
インタビューなどから推測すると、メルペイはタイムマシン経営を中国と日本の間で実行しようとしているように見えます。
https://pecu-nia.com/zhima-xinyong/
人の信用力をスコアリングする芝麻信用
メルペイの代表である青柳さんはインタビューで
人の行動や働き方などを基としたスコアが存在することで、これまで認められてこなかった部分に価値をもたらすことができるのではないだろうか。信用を積み上げて信用全体の総量を増やせれば、経済の活性化に繋がっていくはずだ。
と語っています[4]http://tech.nikkeibp.co.jp/it/atclact/active/14/368541/022300270/?ST=act-enterprise&P=2。
さらに同じインタビューで
メルカリをはじめとする様々なところで購入した資産があり、そこには「所有」と「シェア(共有)」がある。そして、「0」か「1」かではなく、その中間が出てきてそれ自体が担保に変えられていく。働き方やモノの所有の仕方に応じて与信や資産運用、レンディング(融資)、保険などの金融サービスができていく
とも語っています。
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与信
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資産運用
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レンディング(融資)
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保険
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仮想通貨
というキーワードはメルペイ関係者のインタビューでもよく出てきますが、これらは中国で芝麻信用がほぼ実現していることです。
中国では芝麻信用が個人の信用力を数値で可視化してくれます。
そして、信用力の数値に応じてパーソナルなサービスを受けることができるのです。
これは
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数値化された信用力を担保にして
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個人に最適化されたサービス内容を受けられる
ということです。
とうぜん信用力が高い人がサービス面では優遇されます。
どんな人生を送るかは信用スコアの数字次第
中国では芝麻信用の利用者が数億人いるといわれています[5]https://www.amazon.co.jp/dp/B06Y23P4SY/ref=dp-kindle-redirect?_encoding=UTF8&btkr=1。
そして利用者は毎月1回更新される信用スコアの数字に一喜一憂しています。
それくらい芝麻信用と連携しているサービスでの待遇や料金が変わるのです。
芝麻信用は中国の人気マッチングアプリとも連携しているので、若い男女にとっては実生活での恋人探しなどにも影響が出ます。
これを日本で例えると、信用スコアが高ければ人気マッチングアプリ「Pairs(ペアーズ)」でのマッチング率が大幅に上がるようなものです。
マッチングアプリやシェアリングエコノミーのような個人間で取引が発生するサービスでは、相手のことが信頼できないと何もはじまりません。
なので、みんな自分の信用スコアを上げようと一生懸命になるのです。
https://pecu-nia.com/zhima-xinyong-merit/
芝麻信用のスコアは
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(芝麻信用の親会社の)アリババグループ内のサービス
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芝麻信用とデータ連携しているアリババグループ外のサービス
などを利用した時に発生するデータをAI(人工知能)が分析して算出されます。
ただやみくもにサービスを使うだけではダメで、人として道徳的・倫理的に使わないと評価は下がります。
個人の信用力の分析に使えるデータが増えれば増えるほど信用スコアは上がる傾向があるので、スコアを上げたい人は芝麻信用とデータ面で提携しているサービスをマメに使うようになります。
すると信用スコアを上げたいがために連携サービスを使う、しかもルール・マナーを守りながら使うという循環になり、利用者はアリババが作る経済圏から逃れることが難しくなります。
メルカリはアリババのように、「メルカリ経済圏」または「メルカリエコシステム」を信用スコアという仕組みを使って作ろうとしているのでないでしょうか。
アメリカ版信用スコアのクレジットスコア
メルペイの代表取締役の青柳直樹さんは前職のグリー時代にアメリカに滞在して働いた経験があるようです[6]http://logmi.jp/54015。
アメリカでは個人の信用力を数字化する
「クレジットスコア」
というものがかなり昔からあります。
クレジットスコアは
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クレジットヒストリー(クレジットカードの決済履歴)
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公共料金の支払い状況
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裁判所の判決履歴
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学歴
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職歴
などを含むたくさんのデータを分析し、個人の信用力を300〜850の間でスコアリングしたものです。
アメリカでは
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就職・転職
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ローン
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賃貸マンションの入居審査
など、生活の様々なシーンでの信用力測定にクレジットスコアが使われています。
とうぜんスコアが高い人が優遇されます。
もし青柳さんがアメリカでスコア社会を経験し、その後の芝麻信用の中国での普及を見ていれば日本でも同じようなものができないかを考えるのは当たり前のことのように思えます。
メルペイは信用スコアを作る
メルペイは信用スコアを作ることを隠していません。
堂々と求人広告で信用スコアを開発する人を募集しており[7]https://www.wantedly.com/projects/193294、イベント等でも語っています。[8]http://thestartup.jp/?p=18611
普通は日本でも中国の芝麻信用のような信用スコアを作るというアイデアは叩かれたり、マネされたりしそうなので公開しないと思います。
けれど堂々と公開するのは、マネするような会社は少ないと考えているからでしょうか。
どうやって個人の信用力をスコアリングするのか
個人の信用力をスコアリングするにあたって必要になるのは良質で、なおかつ大量のデータです。
メルカリはフリマアプリを通じて個人の出品・購入のデータを持っています。
さらに、業務拡大や資本提携によってデータを取得する範囲を拡大していくでしょう。
データはもちろん任意で提供されたものだけを使うでしょうし、このへんで乱暴なことをする会社だとは思えません。
法律的な問題の対応や関係機関との折衝はすでにフリマアプリでたくさん経験しているので慣れているはずです。
メルペイが成功すれば膨大な決済データが手に入る
自社で運営するフリマアプリや提携先からもデータを取得できそうですが、データの量はそこまで多くなさそうに感じます。
マナーや人柄などを評価するデータは手に入りそうですが、信用力の基盤となるお金に関するデータはフリマアプリだけでは物足りません。
そこで、キーになりそうなのが決済サービスとしてのメルペイです。
キャッシュレス決済のデータは日々トランザクション(取引)が発生し、個人の購買力がわかります。
そして、購入した内容からさまざまな推定データを手に入れることができます。
もしフリマアプリとしてのメルカリ内でメルペイが決済サービスとして使われて、それをきっかけに他の場所でもメルペイ決済が普及すればメルカリは膨大な決済データを手に入れることになります。
そうなるとメルカリID[9]https://www.trendsmap.com/twitter/tweet/968987546226016256にひもづいた、個人の信用力の分析にも使えるであろう大量のデータが手に入り、信用スコアを展開する準備が整うことになります。
メルカリIDによって信用と評価が蓄積される可能性
シェアリングエコノミーはC to Cのサービスが多く、個人の信用力がとても大事です。
これまで個人の信用力はサービス内での評価や口コミで判断されるのが主でした。
しかし特定のプラットフォームで築いた信用は他のプラットフォームに移るとなくなり、またゼロから信用を築かなくてはなりません。
これはとても非効率的です。
MyRateというオンラインの信頼証明書のようなサービスがありますが、リリースしてからそれほど時間が経っておらず、まだそこまで使われている様子はありません。
こんな状況で、もしメルカリがメルカリIDに紐づけて個人の
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信用力
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評価や口コミ
などを他社のシェアリングエコノミー系サービスで共有できるようにしたらどうなるでしょうか。
今よりもみんなが安心してサービスを使えるようになるような気がします。
信用が蓄積されるような仕組みができれば個々のマナーも良くなり、自分への評価を高めるためとはいえ皆が相手のことを思いやり、気分良くサービスを使えそうです。
民泊などでも、これまであった
「旅の恥は書き捨て」
という言葉は使われなくなるのではないでしょうか。
パーソナル化されたサービスを受けられる世界に
個人の信用力がスコアによって可視化される社会では人はパーソナライズ(個別化)されたサービスを受けれます。
例を挙げると
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信用力が高ければ低い金利でお金を借りれる
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信用力が高ければ前金(デポジット)が不要でサービスを利用できる
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信用力が高い人しか入会できない会員制サービスに入会できる
などで、信用力が高い人が得をします。
信用力はデータの内容によって分析され、データが多ければ多いほど相関関係が見つかり、様々な分野に応用が可能になります。
個人の趣味嗜好や生活習慣がデータによって分析可能になると食べログや価格コムなどにおける
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評価のスコア
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ランキングの順位
などがすべて個別化される可能性もあります。
そうなると人によって見える情報が変化することになります。
ただ、このようなパーソナライズされたサービスはすでにgoogleが検索エンジンにおいて実装しています。
メルペイのミッションである
信用を創造して、なめらかな社会を創る
この
「なめらかな社会」
とはメルカリが実現しつつあるようなモノが循環する社会の他にも、サービスが個人に最適化される社会、つまりパーソナライズされたサービスがある社会のことも含まれているように感じます。
決済にも使われる仮想通貨(暗号通貨)がメルペイによって実現か
価値がある、つまり信用力があり流通する仮想通貨(暗号通貨)がメルペイによって誕生するかもしれません。
メルカリはメルコイン(mercoin)を商標申請しており、仮想通貨交換業の登録も申請しています。
もしメルカリ内で仮想通貨が流通したら、
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メルカリグループのサービス
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メルカリが出資している企業のサービス
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メルカリIDと提携する企業のサービス
などで決済手段として使えるようになる可能性があります。
こうなると、これまでの投機目的で購入されていた仮想通貨(暗号通貨)とは全くの別物と考えてよいでしょう。
メルコインの信用力はメルカリが担保するのですから。
もしメルコインと信用スコアの両方を普及させることができたら、メルカリはいち企業という枠を超えた大きな存在になりそうです。
脚注・引用