「2019年は信用スコアが普及して信用スコア元年になる」
とマスコミで取り上げられるほど信用スコア市場は注目を集めています。
信用スコアは
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AI(人工知能)
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パーソナルデータ・ビッグデータ
この両者の組み合わせによって個人の信用力をスコア化し、可視化された信用力を様々なサービスで活用するビジネスです。
確かに信用力を数値で可視化するという考えはSF的で面白い機能です。
若者などは、友達と競うようにスコア上げに熱中するかもしれません。
しかし、ずっと前から
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「人工知能が人間の仕事を奪う」
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「ビッグデータが大事だ!」
と叫ばれているように、個別ではとくだん目新しいものでありません。
では、なぜ信用スコアはこれほど注目を集めているのでしょうか。
この記事では、日本で信用スコアが注目を集めていたり普及すると考えられている理由、さらには社会的な背景について考えます。
このページの目次
ビジネス・経済面から考えられる信用スコアが普及する理由
まずは、ビジネスや経済の面から見た、信用スコアが注目されたり普及する理由について挙げていきます。
読み始める前に信用スコアに関する知識があった方が理解しやすいと思うので、信用スコアについてあまり知らない方は下記のリンク先で予備知識を付けてから読み進めるのがオススメです。
中国とのタイムマシン経営
芝麻信用が日本でこれほど注目を集めるきっかけとなったのが、おとなり中国の
芝麻信用
という信用スコアサービスの大成功です。
https://pecu-nia.com/zhima-xinyong/
芝麻信用の大成功は、日本のIT・ネット系企業をおおいに刺激しました。
簡潔に言ってしまえば、中国で成功したビジネスモデルを日本にそのまま輸入して日本でも成功させようと考えている日本の会社が多いのです。
このような手法は「タイムマシン経営」と呼ばれ、一時期はアメリカで成功したモデルを日本にそのまま輸入して大成功しました。
SNSやブログなどがその代表例です。
現在は、アメリカではなくて中国の企業をタイムマシン経営で模倣する動きが増えています[1]アメリカの企業が直接日本に進出するようになったので、日本のIT企業の出番は激減しました。。
信用スコアが注目されるのは、中国で成功した芝麻信用の影響が非常に大きいのです。
キャッシュレス決済等のビッグデータの活用方法
日本に限らず、世界中で既存産業のデジタル化や自動化がどんどん進んでいます。
これにより、物凄い勢いでデータが蓄積されてビッグデータと化しています。
代表的なデータはキャッシュレス決済のデータでしょうか。
もしキャッシュレス決済が普及したら
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いつ
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どこで
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何を買ったか
などのデータが含まれる個人の購買履歴が、決済サービス運営会社に蓄積されます。
これら個人に紐づくデータ(パーソナルデータ)を分析することにより、個人のおおまかな属性情報(収入・職業等)や趣味嗜好が推測できると言われています。
もしデータを分析することにより個人の信用力を分析することができたら、それを様々なビジネスに活用でき、企業は巨額の利益を得ることができるでしょう。
キャッシュレス決済に参入している会社の多くが信用スコア事業への強い興味・関心を示しているのは、このような理由なのです。
CtoCビジネスの増加によるニーズの高まり
2010年代になり、世界中でCtoC(個人対個人)に該当するビジネスが増加しています。
代表的なCtoCビジネスには
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シェアリングエコノミー
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マッチングアプリ
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クラウドファンディング
などが挙げられます。
これらのサービスでは、見知らぬ個人同士がプラットフォームを通して結びつき、なんらかの取引を行います。
プラットフォーム(会社)を通して結びつくとはいえ、CtoCは他人同士での取引がほとんどで、さまざまなリスクを内包しています。
利用者にとってのリスクを減らすための手段として信用スコアが考えられます。
信用スコアのような個人の信用力を可視化する仕組みがCtoCのプラットフォームに導入されていれば、取引する相手がどれくらい信用力が高いかを把握することができます。
もしリスクを減らしたいのであれば、信用スコアが高い人とだけ取引をすることにより、危険な目に遭ったりトラブルに遭う確率を減らせるでしょう。
CtoCにおける信用スコアは、現在普及しているユーザー同士のレビュー・評価システムのより高度なものと言うことも可能だと思います。
よって、CtoCビジネスが増加すれば信用スコアのニーズは高まるはずです。
余計なコストの削減
ネットに限らず、どんなビジネスもごく一部の例外とも言える悪質ユーザーがいるため、その対策として沢山のコストがかかります。
例を挙げると
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リアル店舗での万引き
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融資の踏み倒し
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保険金詐欺
などです。
ごく一部の悪質ユーザーのために発生するコストを、あらかじめ一定の信用スコア以上の人しか利用できないようにサービスを設定しておけば発生する確率が減る可能性があります。
ネット利用者のマナー向上
インターネットはとても便利な道具です。
しかし、どんな便利な道具でも使いこなせないと意味がありません。
インターネットが普及したことにより
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炎上
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デマ・フェイクニュース
などが発生し、良くも悪くも話題になっています。
炎上やデマ・フェイクニュースが発生するのは、
「ネットだから大丈夫」
という誤った認識が根底にあるからだと思います。
ネットは無法地帯ではありません。
リアルな世界と同じく道徳やマナーが必要です。
インターネット教育などでリテラシーをつけることも大事ですが、もし信用スコアが
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SNS
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チャットアプリ
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ニュースのコメント欄
などで導入されたら、日本に法律に違反していたり公序良俗に反する投稿や発言をした人の信用スコアを下げることができます。
信用スコアがインターネットのあらゆる場面で浸透していればネットとリアルな世界で別人のようになる人が減るかもしれません。
もし信用スコアを導入することによって悪いマナーの利用者が減るなら、WEBサービスを運営する企業は喜んで信用スコアを自社のサービスに導入するはずです。
有力企業の参入
日本の場合はおそらくこれが最大の理由です。
信用スコアが普及するだろうと目されているのは、シンプルに日本を代表するようなIT・ネット系企業が参入を表明しているからだと思います。
では、なぜこんなにたくさんの会社がこぞって信用スコア事業へ参入するのか?というのは、もちろんすべての項目が当てはまる訳ではありませんが、ここまで挙げた物事が理由になっているはずです。
信用スコアが普及するであろう社会的な背景
ここまで、ビジネスや経済面での理由から信用スコアが普及する理由を考えました。
ここからは信用スコアが普及するであろう社会的な背景についてです。
バブル崩壊と平成の大不況、そしてスマホ時代になり社会の構造や人々の意識が少しづつ変わっています。
このような大きな変化のなかで信用スコアが制度として普及するための下地が整いつつあるように感じています。
終身雇用の崩壊と転職者の増加
もし終身雇用という仕組みが本当にあったとしたら、という前提ですが、平成の終盤になっていよいよ終身雇用が崩壊した感があります。
新卒で企業に入社する若者も、近い将来の転職に対してネガティヴなことだと考えていません。
じっさい転職者数は増えているようで、転職サイトやヘッドハンティング系の企業は業績を伸ばしています。
このような環境だと、職歴以外にも自分の能力や人格を証明する手段があった方が次の職場探しがスムースです。
SNSなどを使って自分の能力・人格を証明する方法もありますが、これらに加えて信用スコアも有用だと思います。
もし信用スコアが学歴のような、個人の能力や人格を判断する尺度情報になれば、信用スコアが高い人は仕事探しにそれほど苦労しなくなります。
スコアが低い人は仕事探しに苦労することになるので、誰もが人として高く評価される行動をしようと自分の性格や能力を向上させようとするかもしれません。
フリーランス(個人事業主)として生活する人の増加
フリーランス(個人事業主)として会社に所属しないで生計を立てる人が増えているようです。[2]https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/detakatuyo_wg/dai5/dcwg_siryou2-2.pdf
社会人としての生き方は人それぞれですが、現実問題としてフリーランスとして生きていくのはとても大変です。
収入は安定しないですし、社会保障も国民年金を選択している人が多いはずです。
さらに、重要なのは会社員(正社員)と比較するとフリーランスは収入に関係なく日本社会における信用力が大幅に低下することです。
特に
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融資(ローン)の審査
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クレジットカードの新規作成
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賃貸物件の入居審査
などにおいては顕著です。
これらの審査において、信用スコアが使われるのであればもしフリーランスでも高スコア取得者なら審査を通過しやすくなります。
フリーランス人口はこれからも増加するとされていますので、各種審査において信用スコアのような新しい基準を求める声は増えるはずです。
努力したら報われたいという気持ち
努力することは人にとって大事なことです。
しかし、人は努力しても報われるとは限りません。
これは自明なことです。
それでも人は努力するからには報われたいと思うものです。
とくに若者の間ではこのような考え方をする人が多いように感じます。
信用スコアは基本的に他者から高く評価されるような人格や能力を持つ人は高いスコアを取得しやすいです。
ということは人から高く評価されるような努力を継続的にしていれば高い信用スコアを得られる確率は高くなります。
このような仕組みは公平な社会を求める若者たちから強く支持されるはずです。
しかし、
信用スコアが低い人=努力をしていない人
このような認識が広がってしまうと、その人を排除するような意識や動きが発生するでしょうから、危険性もあります。
信用スコアの普及には政府の力も必要
ここまで
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ビジネス・経済面
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社会的な背景
この両面から信用スコアが普及する理由を考えてきました。
この記事ではふれませんでしたが、普及するか否かという問題に対して最終的に大きな影響を与えるのは政府です。
いくら企業が参入しユーザーが支持しても政府が禁止したり厳しく規制したらビジネスは成立しません。
2019年の段階では政府も信用スコアに対しては厳しく規制しそうな気配はありませんので、サービス設計などは民間企業に任されそうです。
ただ、信用スコアは国民のパーソナルデータをつかった繊細なビジネスです。
もしトラブル等が頻繁に発生したら政府の方針によって許認可制になったり、何かしらの規制が入るかもしれません。
このように、政府の方針も信用スコアの普及に大きな影響を与えるのです。
脚注・引用
↑1 | アメリカの企業が直接日本に進出するようになったので、日本のIT企業の出番は激減しました。 |
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↑2 | https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/detakatuyo_wg/dai5/dcwg_siryou2-2.pdf |
コメント
こんにちは。感想が出ましたので申し上げます。私も企業による信用スコアについて調べてましたから。
日本でスコアが唯一まともに機能しているのは消費者への融資くらいです。貸金業関係ですね。何故かと言いますと、日本に中国式信用スコアをそのまま導入したら、差別的扱いを受けたと裁判所に訴えられたら負けるリスクが極めて高いからです。憲法で定める「法の下の平等」、また民法でしたら「信義則」もそうでしょうか。他にもまだたくさんありそうですが。場合によっては憲法の「通信の秘密」を犯すところが出るかもしれません。
一企業のスコアによってご提案されていたようなSNSその他ネットでの発言規制、CtCのレンタル事業での扱い、婚活アプリが使えないなどが発生すれば、それらは全て差別的扱いに抵触します。
日本での信用スコアの活用実例を見ると、いずれも貸金業関係の話だけです。融資する前にその人の支払能力や約定通りに返済するかクレジットヒストリーの確認、資産について調べることは当然です。もし借りられなかったとしてもそれだけの話で、それ以外で社会的な影響はありません。その範疇を超え、自分だけスコアが低いから〇〇できないが発生していないのがポイントです。
LINEやドコモもしれっと参入してますが、目的はグループ会社が提供する消費者への融資及び補償業務のためです。日本の現法内でも角が立たず文句も出ない唯一の分野で細々と利用されてるのが実態です。
日本にも個人信用機関と呼ばれる組織があります。上記の企業と比較したら失礼なレベルで透明性を担保しています。国の極めて厳しい規制のもと、情報の収集の仕方から利用する目的、利用可能な範囲、閲覧できる対象、厳格な守秘義務、法で定めた期限を過ぎたら即削除義務などです。もし金融ブラックと言われる状態になっても最大で5年間信用取引(融資を受ける、割賦払い、クレカの使用、ローンを組む)が極めて困難になるくらいで、それ以外に社会的なペナルティはありません。金融ブラックとなる条件も債務整理を行った、返済期限を過ぎても一定期間または何度も繰り返すと理由は正当かつ妥当なもので金融秩序維持のためにも必要です。そこまで徹底しているからこそ、個人情報保護法の例外規定となっています。
話が長くなって申し訳ありません。少なくとも日本では社会的なペナルティの伴うことは極めて繊細に取扱わないと即訴訟リスクが出ます。中国という共産主義国家だからこそ成立する特異な制度だと思います。
政府が口を挟むことがないのは、今のところ利用実態が貸金業務の補完程度に使われるくらいで問題は発生してないからだと思います。中国では政府が全面支援して色々利用しようとしているみたいですが。日本政府が下手に支援や手助けすることもないと思いますし、困ります。国が訴えられるのはコントですね、もはや。
あ、ちなみに私はこの手のスコア特有の「望ましい行い」「善行の推奨」が大嫌いです。人脈だの生活習慣だの、人の生活にまで足を踏み込まれるのは嫌ですね。