中国には数億〜十数億人規模のインターネット人口がいます。
そして、海外(特にアメリカ)の人気webサービスを「グレートファイヤーウォール」で情報遮断しているせいか、世界の潮流とは異なる独自のサービスが流行することが多いです。
今回紹介する
「芝麻信用」
もその中のひとつで、中国の利用者は芝麻信用での信用スコアの変化に一喜一憂しています。
この記事では芝麻信用の仕組みなどについて全般的に解説したいと思います。
これまではアメリカで流行したwebサービスが日本に輸入されたり模倣されるという流れでしたが、これからは中国で流行したサービスが日本に輸入されたり模倣される、という流れが起きつつあります。
となれば日本版の「芝麻信用」も登場するでしょうから、サービスの仕組みなどを理解しておいて損をすることはありません。
このページの目次
芝麻信用は信用スコアサービス
芝麻信用は個人または法人の信用力をスコアリング(数値化)をしてくれるサービスです。
人の信用力を数字化するというとSF的なディストピアみたいな印象がありますが、中国ではみんな芝麻信用のスコアを上げることに一生懸命です。
これは後で説明しますが高い信用スコアを獲得した人には様々なインセンティブが用意されている、つまりスコアを高くすることによるメリットがあるからです。
ちなみに中国でのサービスのスタートは2015年1月からです。
サービス開始は比較的遅いですが、利用者数はweb日本のサービスとは桁違いに多いようです。
・芝麻信用webサイトURL
芝麻信用の読み方はバラバラで統一されてない
芝麻信用は
-
中国語だと「ジーマーシンヨン」
-
英語だと「Sesame Credit(セサミクレジット)」や「Zhima Credit(ジーマクレジット)」
と読みます。
日本語での読み方や発音は個人やメディアによって違いがあり、
-
ゴマ信用(中国語の「芝麻」は「ゴマ」という意味だから)
-
ゴマクレジット
-
ジーマ信用
-
ジーマークレジット
など、特定の読み方で統一はされていません。
ちなみに、芝麻(ゴマ)は「アリババと40人の盗賊」というおとぎ話で使われる「開けゴマ(Open Sesame)」が由来となっているようです。
親会社のアリババとかけているのですね。
運営会社は芝麻信用管理有限公司
芝麻信用は芝麻信用管理有限公司によって運営されています。
そして、芝麻信用管理有限公司は阿里巴巴集団(アリババグループ)の子会社である螞蟻金融(アントフィナンシャル)のグループ企業です[1]アントフィナンシャルは以前は「支付宝(Alipay:アリペイ)」という名前でした。。
このあたりはシンプルにアリババ系だと考えて良いと思います。
アリババグループは有名な通販サイト「アリババ」以外にも中国では
-
支付宝(アリペイ)
-
淘宝網(タオバオ)
-
优酷(ヨウク)
-
天猫
などの大人気サービスを運営しています。
アリババには日本のソフトバンクが出資し大株主として名を連ねていることでも有名ですね。
中国の中央銀行である中国人民銀行が認定
中国では信用スコアのような個人向け信用格付け事業を開始するにあたって中国の中央銀行である「中国人民銀行」の認定が必要となります。
芝麻信用の他には、チャットアプリのwechatやゲームアプリで有名な「騰訊(テンセント)」も認定されており「騰訊信用(テンセント信用)」という信用スコアサービスを運営しています。
このような認定の仕組みがあるから中国で爆発的に普及したとも考えられます。
芝麻信用の信用スコアの仕組み
ここからは芝麻信用の信用スコアの概要や仕組みを説明したいと思います。
似たような個人の信用力を確認できるサービスである
-
アメリカのFICOスコア(クレジットスコア)
-
日本の信用情報
などとは違う点が多いので注意してください。
個人の信用力を350〜950点でスコアリング
芝麻信用ではアカウントごとに信用スコアが付与され、数字は
350〜950点
の間で推移します。
基本的にはスコアの数値が高ければ高いほど良くて、
-
700〜950点:極めて良好
-
650〜699点:とても良い
-
600〜649点:良い
-
550〜599点:普通
-
350〜549点:やや低い
このように信頼力がランク分けされます。
ただ、800点以上のスコアを得られる人はほとんどいないとされています。
よって、中国では800点以上の高得点者は一種の「レアキャラ」のような扱いで、非常に高いステータスを持つことになります。
スコア算出の基準となる要素
スコアを決める大きな要素となるのは
-
身份特质
-
履约能力
-
信用历史
-
人脈関係
-
行为偏好
この5項目とされていて[2]実際はもっと多数の要素が絡んでいるはずです。、この5項目を使ったレーダーチャートが表示されます。
それぞれの日本語での意味は
-
身份特质:年齢や学歴や職業など
-
履约能力:支払いの能力
-
信用历史:クレジットカードの返済履歴をふくむ信用履歴(クレジットヒストリー)
-
人脈関係:SNSなどでの交流関係
-
行为偏好:趣味嗜好や生活での行動
となっています。
芝麻信用がこれらの能力を数値化できるということは、数値を算出するための大量の個人データを持っている、ということでもあります。
AIによるスコアリングに使う情報(データ)
個人の評価をスコアリング(数字化)するとき、芝麻信用はアリババグループのサービスや提携サービスの使用状況をデータとして吸い上げます[3]データの提供は任意で、ユーザーの同意を得ています。。
そして、吸い取ったデータをAI(人工知能)が分析して5項目それぞれの数値を算出します[4]算出アルゴリズムの中身については非公開となっています。。
分析に使うデータは
-
決済サービス「支付宝(アリペイ)」の決済履歴
-
シェアリングエコノミーサービスでの評価
-
保有している金融資産の資産価値
-
ネットショッピングでの購入履歴
-
公共料金の支払い履歴
-
社会のために寄付をしているか
などの情報です[5]他にも分析用データとして使う情報はたくさんあります。。
また、データを渡せば渡すほどスコアが高くなる傾向があるので、利用者もデータを渡すのにそれほど躊躇しないようです。
個人情報を渡す怖さよりは、芝麻信用で高いスコアを得ることによるメリットの方が優れているということだと思います。
信用スコアの更新頻度は月に1度
芝麻信用のスコアは定期的に更新され、更新頻度は月に1度となっています。
なので1ヶ月間の自分の行動内容によってスコアがどのように変化したのかを毎月確認できます。
スコアの推移がわかるということは、
-
芝麻信用が評価データ(記録)として利用しているであろう自分の行動
-
芝麻信用の自分の信用スコアの変化
このふたつを分析すれば何をしたらスコアアップしたかがわかりそうですが、
-
スコア算出に使うデータの種類
-
スコア算出のアルゴリズム
の両方とも常に変わるので、いわゆるハッキング的な行動は難しいようです。
ネット上には様々なスコアを上げる方法についての憶測が出ていますが、人工知能のアルゴリズムについては推測する以外の方法はありません。
ただ、芝麻信用は中国国民のマナー向上に役立っていると言われているサービスです。
このことを考えると
-
道徳的と評価されるような発言・行動をする
-
人として高く評価される行動をネットとリアルの両方でする
など、規範にそった言動がスコアアップのための近道になりそうです。
ビジネスモデルは手数料型
芝麻信用は信用力を可視化するプラットフォームを運営しています。
ただ、プラットフォームを運営するだけでは広告収入以外の収益を得ることが難しくなります。
なので、信用スコアを運営する会社は信用スコアと提携する会社へ顧客を送客したりした際の送客料を手数料として得ています。
信用スコアの詳しいビジネスモデルについてはリンク先にて確認してください。
芝麻信用で高いスコアを持つメリット
芝麻信用で高いスコアを獲得した人に対して様々なメリットがあります。
人々が芝麻信用を使い高いスコアを獲得したがる理由は現実世界でのインセンティブにあるのです。
芝麻信用はネットだけで完結するサービスではありません。
高い信用スコアのメリットまとめ
芝麻信用で高い信用スコアを得ている人は各所で優遇されます。
ではどのようなシーンで優遇されるのかをいくつか抜粋します。
-
ホテルをふくむ様々なサービスでデポジットの支払いが不要になる
-
シンガポールやルクセンブルクのビザ取得が容易になる
-
高いスコアの人しか使えないシェアリングエコノミーサービスがある
-
高いスコアの人しか登録できないマッチングアプリが使える
-
初対面の人でも高い信用スコアを見せれば信用してもらえやすい
このように、もし芝麻信用で高いスコアを持っていれば生活全般で高い信用力を活用できます。
信用力のスコアリングサービスは日本でも増加中
芝麻信用のような個人をスコアリングするサービスは日本でも増加しています。
それらの多くは
-
フィンテック
-
インシュアテック
-
シェアリングエコノミー
など、スマホ時代になって本格的に普及してきたサービスです。
しかし、日本版芝麻信用と呼べるような、膨大なデータを使い個人の信用力を総合的にスコアリングするサービスはまだ日本では登場していません。
2019年4月現在はソフトバンクとみずほ銀行が信用スコアをベースとした個人向けキャッシング事業「J.Score(ジェイスコア)」を運営しているくらいです。
とはいえ、日本でもしばしば「信用経済」や「評価経済」という言葉を耳にするようになりましたし、複数の有名企業も信用スコアの準備を進めています。
「信用経済」や「評価経済」を実現するためには大量の個人情報を扱う必要があるので、本格的な普及は国の政策による後押しなども必要になります。
中国は国全体で芝麻信用のようなサービスを応援している感があります。
そして、芝麻信用のような信用格付けサービスを歓迎する数億人以上の国民がいます。
このあたりが最近の中国の強みかもしれません。