「データは新時代の石油だ」
という言葉があります。
この言葉を裏付けるように、個人のデータを収集・活用して巨額の利益を出している会社もあります。
しかし、データの提供者である消費者には金銭的な見返りはほぼありません[1]その代わりに無料で優れたサービスが使えたりはします。。
これではデータ提供者は不満を感じるはずです。
そんな状況のなか、日本では
「情報銀行(じょうほうぎんこう)」
と呼ばれる新しいサービスがはじまろうとしています。
情報銀行はざっくりと言えば、個人のデータを管理・運用してくれるWEBサービスです。
サービスによってはスマホアプリにも対応しています。
スマートフォンやIot機器の普及によって個人でも自分のデータを「ライフログ」として簡単に記録・保管できるようになりました。
もし情報銀行が普及すれば自分のデータを情報銀行に預け、ベーシックインカムのように毎月収入を得ることができるようになる可能性があります。
つまり、個人の情報(パーソナルデータ)が本当にお金に変わるかもしれない、ということです。
この記事では情報銀行について、初心者向けに
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概要
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仕組み
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メリット
などを解説をしたいと思います。
このページの目次
情報銀行の概要や仕組み
情報銀行は
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パーソナルデータバンク
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インフォメーションバンク
とも呼ばれます。
仕組みについて簡潔にまとめると、基本的には個人の情報を預かり、
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管理・保管
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運用・販売
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(データ提供者にたいして)報酬の支払い
などをしてくれるのが情報銀行です。
イメージとしては個人のお金を預かり、その金額に応じて利子を支払う銀行と似ており、おそらくこのイメージが情報銀行というネーミングのきっかけになったのだと思います。
日本で情報銀行がスタートする背景やサービスの目的
情報銀行は必要があって生み出されたサービスです。
日本では総務省が「情報信託制度」として推進しています。
背景にはインターネットを通じて収集した個人情報を広告や販売などに活用して巨額の利益を生み出している
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Google
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Facebook
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Amazon
など、アメリカの超巨大企業の存在があります。
これらの会社が提供するサービスをユーザーはほぼ無料で使えます。
その代わりに、利用者は自分の個人情報を運営会社に渡しています。
「無料で使えるサービスでは利用者自身が商品になっている」
という言葉があります。
無料サービスでは、実質的には利用者の情報が商品になり、情報を保有する会社はデータを広告などに活用して利益を生み出しているということです。
この状態をほとんどの利用者は意識していません。
さらに、情報を提供したことによる直接的な利益を得てもいません。
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企業はデータを利用して巨額の利益を得ている/p>
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データを提供する消費者はとくに利益を得ていない/p>
情報銀行はこの不均衡を是正することも目的として作られています。
情報銀行は利用者から提供された情報を管理・運用することによってデータ提供者に対して
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お金
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ポイント
などの直接的なインセンティブになるものを報酬として返します(報酬やポイントはデータを購入した事業者から直接渡されることもあります)。
銀行にお金を預けたら利子がつくように(今では極端に低い利子しかつきませんが・・・)、情報を預けたらそのデータの市場価値にもとづいて報酬を受け取れます。
つまり、情報がお金に変わったらその対価をしっかりと情報を提供する人に返してくれるのです。
収集された情報がどのような利益を生んでいるのか、これが不透明な現在の状況よりは納得がしやすい仕組みといえます。
取得・保管できるデータの増加も情報銀行を後押ししている
テクノロジーの進化はとても早いです。
スマートフォンの登場により、個人のデータが以前よりもはるかに簡単に取得できるようになりました。
さらに、保管もより簡単になりました。
スマホだけでなく、Iot機器などの普及もいちじるしいです。
スマホやIotの普及により個人のデータが容易に取得できるようになり、個人にひもづくデータの量自体が増加しています。
これらのデータを活用しようとする動きがあることも背景として挙げられます。
情報銀行の歴史的な背景
欧米をはじめとした海外には個人の情報を売買できるサービスがありますが、どれも規模が小さく商業的に成功しているとは言えません。
日本においては2010年代に入ってから情報銀行に関して議論されてきましたが、2018年になってようやくサービス実現の準備が整ってきました。
情報銀行と似ているサービスとしては、エブリセンスジャパン株式会社が運営するデータ取引市場アプリの
がありますが、情報銀行は取り扱う情報の範囲がもうすこし拡大したサービスとなりそうです[2]エブリセンスジャパン株式会社はアメリカのEverySenseの日本法人です。。
情報銀行の役割は信託された情報の安全な運用
情報銀行はある役割を持ちます。
情報銀行の役割とは、個人から信託(信頼され託された)されたデータ(情報)を安全に保管・管理して、情報が欲しい企業に対して適切な価格で販売することです[3]販売に関しては直ではなくデータ取引市場などを仲介する可能性があります。。
このとき、情報を求める企業の信頼性やデータを求める妥当性なども審査してくれます。
そして、情報を販売したらデータの提供者に対してお金やポイントなどで報酬を支払います(報酬やポイントはデータを購入した事業者から直接渡されることもあります)。
繰り返しになりますが、業務としておこなうことは銀行と似ています。
情報銀行はひとつだけでなく、複数の情報銀行が共存できるのも銀行と似ている点です。
政府や自治体が運営するのではなく、民間企業に運営が任されているのも銀行と同じです。
利用者は複数ある情報銀行の中から好きな企業や信頼できる企業を選び、自分の情報の預け先を決めることになります[4]もちろん不安を感じたり危険だと考える人は情報を預けない自由もあります。。
情報を受け取った企業は受け取った情報をあらかじめ決めていた目標のために活用し、目標を達成したら情報を返却します。
なので企業側には個人の情報は保管されません。
提供するデータは個人がコントロールできる
情報銀行を説明する上で大切な点は、提供するデータに関しては情報提供者である個人が完全にコントロールできる点です。
具体的には
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信託・運用するデータの種類・内容(どんなデータを運用してもらうか)
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データは匿名化した上で運用するかどうか
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どの企業にならデータを提供するか、逆にどの企業は提供NGか
などを自分の意思で決定できます。
データを取得されたら使い道がほぼ謎となる(利用規約やプライバシーポリシーに記載されている可能性はあります)既存のデータ活用企業と比べると自由度が圧倒的に高くなります。
データには関してはPDS(パーソナル・データ・ストア)という仕組みで管理し、PDSに集約されたデータを所有者である個人が管理することになります。
信頼されている大企業しか情報銀行は運営できない
情報銀行は膨大な量の個人データを扱うので、どんな企業でも参入できるわけではありません。
そもそも人員や技術力、さらにはセキュリティやインフラへの投資資金の問題で中小企業には運営が難しいです。
それに、人は名前を聞いたことが無いような企業に対して大事な個人の情報を預けるとは思えません。
なので
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人から信頼されている有名な大企業
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情報セキュリティに対しての実績や技術力がある
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資本的に余裕がある
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信用力があり倒産リスクなどが極めて低い
などを満たしていないとビジネス的には非常に厳しくなります。
さらに、情報銀行を審査・認定する団体である「IT団体連盟」などもあるので[5]https://www.nikkei.com/article/DGXMZO35305450T10C18A9000000/、実質的には参入できる企業は本当に限られた企業に絞られるように思います。
情報銀行は団体による認定がなくても事業を開始することができます。
それでも、利用者としてはこのIT団体連盟に認定されている情報銀行を利用するのがおそらくもっとも安全だと思います。
2019年8月現在認定されているサービスは2社のみ
2019年8月現在、IT団体連盟より情報銀行の認定を受けているサービスは
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三井住友信託銀行の「データ信託」サービス(仮称)
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フェリカポケットマーケティングの地域振興プラットフォーム(仮称)
の2社のみです。
どちらも、サービスはまだはじまっていません。
情報銀行を利用するメリット
ここまで情報銀行の概要を説明しました。
ここからは情報銀行をじっさいに利用するとデータを提供する人にはどのようなメリットがあるかを解説します。
メリットがないと利用者も情報を預けません。
だから、情報銀行も情報を提供してくれる人にメリットが発生するような仕組みを用意しています。
運用の報酬として現金やポイントがもらえる
すでに説明しましたが、情報銀行にデータを預け、それが企業等に販売されたら
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お金
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ポイント
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ギフトカード・クーポン
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サービス利用料の割引
などでデータの提供者に対して還元があります。
まだ情報銀行がスタートして間もないので何ともいえませんが、おそらく
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属性情報が多い
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希少性が高い
などのデータであればあるほど販売するときの価値は高くなると思います。
希少性が高いデータの例を挙げると、名前・出身地・居住地・性別・年齢・職業などの属性情報が公開された上での
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遺伝子情報
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家族の疾病履歴
などは非常にパーソナルなデータということもあり、希少性は高くなるでしょう。
個別化(パーソナライズ)されたサービスが受けられる
情報銀行に提供されたデータはただ販売されるだけではありません。
提携企業はデータ提供者が情報銀行に預けたデータを任意のもとに分析し、その情報を提供してくれた人に向けてサービスを個別化(パーソナライズ)することができます。
個別化されたサービスの例を挙げると
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健康診断の情報を元にした食事レシピのアドバイス
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過去にいった観光地を分析し、データ提供者が好むであろう新しい旅行先を提案
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遺伝子情報を分析し、最適な抗ガン剤を提供
などが考えられます。
個人のデータを提供すると様々なサービスにおいて最適に個別化されたサービスを受けられる可能性が出てきます。
もちろん、情報の分析やサービスのレコメンドはすべてデータ提供者の許可や希望にもとづいて行われます。
なので希望していないのにサービスをすすめられることはありません。
三菱UFJ信託銀行が2019年に情報銀行を開始予定
日本では三菱UFJ信託銀行が2019年中に情報銀行をはじめる予定です。
2018年8月に実証実験をはじめたという報道もあります[6]https://newswitch.jp/p/13745。
また、報道では
個人は1企業あたり500―1000円程度を受け取る。
との記載があります[7]三菱UFJ信託、来年度「情報銀行」に参入。
もしこのような単価で報酬が設定されるのであれば、データ提供者はかなりの額の報酬を手にすることができそうです。
ちなみに、実証実験には
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アシックス
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no new folk studio
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NTTデータ
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東京海上日動火災保険
などの企業の参加が明らかになっています。
情報銀行アプリは「DPRIME(仮)」
三菱UFJ信託銀行はアプリで情報銀行サービスを開始する予定です。
プレスリリースによると、アプリ名は
「DPRIME(仮)」
となっています[8]https://www.tr.mufg.jp/ippan/release/pdf_mutb/180718_2.pdf。
DPRIME(ディープライム)はまずは自社の社員や提携企業の社員などで実証実験を行うようです。
一般のユーザーがアプリを利用できるようになるのは早くても2019年でしょう。
銀行をはじめとした大手企業が情報銀行ビジネスに参入予定
情報銀行はビジネスとして国家や企業から有望視されているせいか、銀行をはじめとした大企業が続々と情報銀行の分野に参入を表明したり実証実験を行っています。
どんな企業が参入するのか、各サービスの内容比較等は下記ページで紹介しますので、より詳しい情報を知りたい方はリンク先でご確認ください。
脚注・引用
↑1 | その代わりに無料で優れたサービスが使えたりはします。 |
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↑2 | エブリセンスジャパン株式会社はアメリカのEverySenseの日本法人です。 |
↑3 | 販売に関しては直ではなくデータ取引市場などを仲介する可能性があります。 |
↑4 | もちろん不安を感じたり危険だと考える人は情報を預けない自由もあります。 |
↑5 | https://www.nikkei.com/article/DGXMZO35305450T10C18A9000000/ |
↑6 | https://newswitch.jp/p/13745 |
↑7 | 三菱UFJ信託、来年度「情報銀行」に参入 |
↑8 | https://www.tr.mufg.jp/ippan/release/pdf_mutb/180718_2.pdf |